さいとうつづりの黒い森
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一星霜

この月

父がこの地上から姿を消して
一星霜

母は少女のように泣いていた



どんなに思ってももうどうすることも
できないけれど

この月日

思い叶わぬ時間は
長く感じられるばかりで

受けとめるには
短くて

あなたの思いを
思って



会いたいね

お父さん







生きること
死ぬこと

命というもの


生を与えられる理由
生きる理由
生きなくてはならない理由
生かされる理由

奪われる理由
終焉

脈を打つということ
脈を打たなくなるということ

いること
いなくなるということ


会えないということ








死という現実

それは美しいものではない
壮絶なものだ



生きている限り分かりえぬ
未知なる
最後の扉

それは最後か
そのむこうに景色はあるのか
無いのか


死を思い
死を想う


誰も分からなくて
けれど誰もが向かう
最も謎めいた
神秘的な事象

だから甘美に映るのだろうか
美しいと思うのだろうか


現象として
美しいのだろうか

死があるから
美しいのだろうか







弔い

祈り

お経を読むのも
十字を切るのも
どれもただの方法に過ぎないのだろう
けれど
どれも違うように思え

扉のむこうに景色は
結局のところ無いのだろうと思う
それはあってほしいと願う
ひとの作りし妄想世界に過ぎなくて


けれど
分からぬことは分かりえぬこと

それでも
その深淵に臨むことで僅かずつでも見えるものがある

横たえるもの
それらに寄り添いたいという思いが
静かに湧き続ける


死を見ているつもりが
やはりすべて幻想であっても

それでもいいの
それでいい

私は私の思いを持ってして
向かい続けたいと思う

そこに見たものは
私として喜びに等しいものだから







この一星霜は
とても不思議な時間だった

悲しみと
目の前に現れた生と死の途方も無い難題に
思いが思うようにならなくて
分裂したり
千々に乱れたり

ものの見方も
考え方も

ひとの心ってこんなふうになるのだなぁ
変化するのだなぁ
我がことながら驚いて

けれど
それは悪いことではなくて

私の時は続いてゆくので
ここから繋がる先がある
続いてゆくから

駆け巡り
増殖し続ける思いを放ち
生かしてあげなければ

それが私の
私とすること
使命と思う







レクイエムは歌えないけれど
死を思い
死を想う

そしてそれ以上の生がある
美しいものも
素晴らしいものも
焦がれるものも
求めるものもある

思うものがたくさんあって
クラクラとする
飲み込まれてしまいそう

思いの量に現実が負けてしまいそうで
ハラハラとする
けれど
負けたくはない







ねぇ お父さん
娘はまだこんなに未熟者です

困ってしまう

だけど
だから私は
私を続けなければなりません



不思議ね
ひとって
人生って

儚いけれど
白昼夢にたとえるには
悩ましい







白昼夢







優しくて
穏やかで
家族を愛し
シャイで
人見知りで
多くのひとが大人になって無くしてしまうものを持っていて
純粋で
傷つきやすくて
心の深い
父でした







一年
それはなんの区切りでもないけれど

どこからか
鐘の鳴る音を聞く


白の罠
夏のひと夜
たった数時間だけ
花開く

美しきその御姿は
聖なるものか
魔性のものか

あなたの白い罠になら
喜んで捕らわれましょう


カラスウリ


そうして秋には朱の実をつける
カラスウリ




実家にいる父のもとへ絵を届けた
父のための 絵

日に日に弱りゆく父に
何か少しでも私にできることは
そう思って
慌てて制作を始めた 絵


けれど
現実は残酷にも
私に描く時間を与えてはくれなかった

病は驚く速さで進行し
大切な父の体を蝕み

私はただ父のそばにいるよりほかに
できることがなくなって

父はその絵の完成を待たずに
逝ってしまった


それから数ヶ月の間
その絵には手をつけることができずに放棄していた

けれど
その絵を仕上げなければならない気がして
制作を再開

そしてようやく父のもとへ
その絵を届けることができた

遅くなって
ごめんね

穏やかに微笑む少女の絵

こんな絵は
父や母のためにしか描くことができない

父の願いに反し
あまり笑顔を見せてあげて来れなかった私の代わりに
この笑顔に包まれて
どうか


その絵を母はたいそう喜んでくれたので
父も母のとなりで
優しく微笑んでくれていたことだろう


悲しみはいまだ癒えることを知らない

けれど
美しいものも
花も
たくさん 
あるから


息を吸って
息を吐いて



カラスウリ


咲き誇れ
さくらも咲かなければいいのに
って 思った

この前の年も 今回も
胸がキリキリとして
し過ぎて
思いの中であなたを何度も切り倒した
それほどに

それでもさくら
あなたは咲くという
あなたは咲くことをやめてはくれなかった

あなたが咲く季節を心待ちにしていたひとがいるの
けれど
今年はその時を迎えることができなかった
ずっといっしょに迎えられたらよかったのだけど
もうずっと
ずっとできないのだって

次の春も
その次の春も
もっと先の春までも

そんなことがあるなんてどうして信じられようか
この先の春がそんなに悲しいなんて覚悟
できてない

できてないから
そんな先のことは誰もわからないでしょう
そう思ってる
だってそう
そんな先のことは誰もわからない
本当に わからないのだから

それでもさくら
あなたが咲くというのなら目を背けてはならないね

でも怖い わからない
あなたをどんな顔をして見つめることができるというの
どんなふうにして受け止めればいい

答えは出ない
戸惑い思いあぐねる私をおいて
あなたは迷うことなく次々と蕾をほどく

罪深き花よ
ならばいっそ咲き誇れ

優しくなくていいから
逃れられないように
そうしてあなたのもとへ誘き出して

すべての者に
生ける者
私に この春を与えて



さくら



さくら



さくら



さくら



さくら


ねぇ、見てる?

さくら



たくさんのさくらを
たくさんのさくらを



さくら



そうね
あなたは「 生 」なのね
絶対の生
だから怖かった
けれど怖いほどに 美しい



さくら



さくら



さくら



さくら



ほら
もう囚われた



さくら



さようなら さくら
いろんなことが不確かだけど
あなたは確かで

また次の春も
会えるといいね


メメント・モリ
冷たく澄んだ2月のある午前
この世界での最後の呼吸をし終えると
愛おしい命のともしびは静かに静かに消えてしまった

どんなに待っても次の呼吸をすることはなく
どんなに名前を呼んでも閉ざされたそのまぶたが再び開くことはなく
強いモルヒネによって痛みの苦しみから解放されて
とても穏やかな顔を浮かべて
まるでうたた寝でもするかのように そっと
けれど覚めることのない
永遠の眠りについてしまった



お父さん
あなたは深緑
あなたは優しさに満ちていて
不器用だけど私たちを深く愛してくれて
あなたの存在は広葉樹の茂るあたたかな森のよう
私の平穏の象徴だった

そのあなたはもういない
いなくて
この世界は色褪せて
心の中に出現し
辺り一面を吹き飛ばしたいくつもの広大なクレーターは
ぽっかりと空いたまま
あれからもう一ヶ月以上が過ぎたのね
あなたがいなくても
何ら変わりなく 寸分の狂いなく時が刻まれ続けている
それが不思議に思えてしかたないのに
そんな不可思議なことがあるものなのね



いないとはどういうこと
もう会えないということ
あなたと過ごしたい時間が日々がまだ山のようにあったのに
もう叶わないということ

美しい花が咲いていた時 胸を揺るがす風景や
夕焼け 流れ星
あの公園にまた出かけたくなる麗らかな日の訪れ
あなたが熱心だった宇宙や文明の新たな発見を知った時
美味しいものを食べた時
見てもらいたい作品ができた時 
伝えたい思いがある時・・・
これから迎える日々のあらゆる時の中で
私はあなたを思うでしょう
この世に生きる喜びを感じた時は
同時にあなたのいない世界に私はいて
その現実を受け入れていることになるのかと
悲しまずにはいられないことでしょう
それでも私はこの世界で生きてゆくのでしょう
悲しいけれど、生きてゆくとはそういうことなのでしょう

なんて わかりやしないのに

生きるとは何でしょう
生きるとは何
なぜ命は与えられるの
与えられたら生きなくてはならない
それはとても過酷な試練で
それでも夢みて 焦がれて
この命に感謝をして
こんなに生きて 生きている
それなのに、与えたものを何故そうして無下に奪い去るの
ひとつしかないのに
一度きりなのに

この生の不条理よ
そこに意味などあってたまるものか
運命などと
安易にそんな言葉を持ち出さないで
だってあんなに生きて 生きていた
生きていたのに
生きていたかったのに
生きていたかったのに

生きていたかったのに!

わかりやしない
生きるとか 生きてゆくという意味
それぞれの ではない
万物のにおける
命が与えられる理由
この現象
誰もが与えられているけど
誰も教えてはくれないし
誰も知らない
誰ひとり知らない
この胸の鼓動は誰のもの
私たちは自由なの
それはあっという間に奪われる自由なの
絶対者は存在するの

知らない者たちばかりがこの地上の一瞬を共有して存在しているだけ
そして
みんな いなくなるだけ
知らないまま いなくなるだけ

知らないしわからない
けれど私にも与えられたからここにいる
きっともうしばらくここにいる
そしていつかいなくなる
奪われるとも果てるともわからない
けど
いることといなくなること
そのふたつはとても近い存在で
手を繋いでいるかのように
今はそう感じる



それでも
いなくなったらやっぱりもう会えないの



お父さん、会いたいよ
会いたくて
会いたくて
会いたくて
会いたくて
一目でもいいから会いたくて
けれどこんなに呼んでも会えなくて



ここにいるじゃないかって
優しくとなりで微笑んでいるかな



菊



まだここにある現実が現実ともつかないようで
わからないことも膨大にあって
けれど、すごく感じてる
それは今まで畏怖してきた想像でしか及ばなかった存在
あるいは存在を超えた大きな大きな固まり
概念ではなく
もっと確かにそこにあるもの、あったものが
やおらその姿を現しはじめ
圧倒されて
心がはだけてしまいそう

それでもたぶんうれしんでいる
私はこんなに無知で
そしてまた新たな世界の扉の前に辿り着き、探求が始まるのだから
探求するべきことがあちらにもこちらにもこんなにあって
私の思考力では気付くことや
考え至ることのできないものもきっとそれ以上にあって
それらを知る前にここからいなくなることになるだろうけれど
それまでいくら思想するのも自由だもの
それは自由
そして、すればするだけ私の中では繋がってゆく
至上の景色に包まれる
すべてはそこに繋がってゆく
心が震える



父と会えないことは耐え難いほどにさみしくて
それまでの平穏は崩されたけど

与えられた理由も生きる理由もわからないけれど
生きているからこんなにわからないことがあるのだし
生きているから思想することができるのだものね
まだまだ学ばなくてはならない

だから私は生きていたいのだろうな
美しいものも求めるものもここで見つけることができる
私を生かすために必要なものは
そんなに多くはないはずだけど
散らばっているから拾い集めていかないと
けれどそれらは確かにここにある



そして

生きることで死を想う

いつか眠りにつくその時まで






私にとってこれほどの悲しみは初めてのことで
一時は絶望に支配され
しばらくは書くことも描くことも
あらゆることができずにいたけれど
そんな自分は無のようだったけれど
そうしながらでも静かに時を過ごしてゆく中で
父を感じ
いつまでも母や私や
父を思う人たちの中に
こうしてこれからも変わらず居続けてくれるのだと
本当に手に取るように 触れているように実感として思えるようになって
もしかしたらたまに見えているのかもしれないけれど
そしたら止まっていたものがまたトクントクンと動きだして

あぁ、よかった
私、無のままではなかった

動きだして湧いてきたら
今度はあふれないように放出しなくては
それでもまだこの自分を収めきれず
制御ができずに
時に暴発したり散乱したり
浮かんだり沈んだり駆け巡ったり漂ったり増殖するこの思いを 感情を
うまくまとめて吐き出すことができないように思うから
吐き出すことのできる形を成したところからしてゆけばいい



父は私が笑っていると喜んだ
私の笑う顔が好きだと言い
日々を笑顔で過ごすことのできるようにと望んでいた
けれど私は父の望むほど
そんな表情をしている姿を見せてあげられなかったように思う
いつも鬱々として
心配ばかりさせて
それが娘として申し訳なく
本当に悔やまれてならない

けれど父は最後の時を迎える2日前の夜に
病室のベッドに力なく横たわり
もうほとんど出ない声を振り絞って
そんな私の存在意義を100パーセント肯定してくれる最上の言葉を与えてくれた
その言葉は強力なお守りとなってこの先の私を守り続けることだろうし
その言葉が私をくるみ、救って、強くする
最上の
そして最後のプレゼント
その時の父が私を見つめる優しいまなざしが
声やその言葉とともに私の目に 胸に焼きついている

これからも父は私を見ていてくれることだろう
笑うのも泣くのも
どんな表情をするのも



つづり、なんでもまっすぐ言っていいからね
数日前
臆する私に母がくれた言葉

喜びも悲しみも分け隔てなく
ここにあるどんなことも
すべてはその時々においての私の日常であり 今であり
私を司る思いであり 事である

自分の思いに素直でありたい



放出作業
その意味とは別に
大切なことだから避けたくないと思い
何度も書いては消して
やっとここまで書きました
それでもこの文は自分の思いにおいても伝えるという意味においても
稚拙で乱雑で
まったくの途中に過ぎないので
対峙しながらまた少しずつ

ひだの奥にある細かなものは
文字にして表すには語彙力に乏しいので
キーを打つ手をステッドラーや筆などに持ち替えて



読んでくださった皆さま
ありがとう
近くにいてくれたり
思っていてくれた方々にもたくさんの感謝を



メメントモリ



メメント・モリ
死を想え
いつからか私の中に潜んだ言葉
そしてこの言葉は
父と母の敬愛する作家であり写真家の藤原新也さんの著書の表題でもあります
父の病が発覚した後、二人はご本人に会いに行き
その時に三人で撮った写真が父の遺影となりました
それは父らしい、とてもいい顔をしています






メメント・モリ



死を想え



あなたを想う