さいとうつづりの黒い森
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鳥の空

広い空


青い空




鳥は放たれ


そして消えた




帰してと


帰してと




翼を置いて


何処かへ消えた




その鳥の自由は


空に無く












存在しない時間を過ごして


その日々を書き綴る




食べてもしかたのないものたちを


フォークに刺して口へ運び


咀嚼して


少女は空虚に


それを飲み込む




疲れて眠り


目覚めると


また存在しない時間が始まる




それでも少女は


日々を止めず


その物語を書き綴る




存在しない月の満ち欠けが


少女に生を与えてる












水たまりを飛び越える


小さいの


大きいの


罠か鏡か入り口か


雨は何も言わずに降り落ちてはその一部と化して


私は向こうの岸まで足を広げて


思い切り




けれど届かず


水に落ちて


そのまま沈んで


手を振った


こちらを覗き込むもうひとりの私に手を振った












閉じた耳は永遠を聴く


そこには翼のない鳥が飛んでいる


おかえりなさい


そう言う手は傷だらけ


まるであなたの手のように


箱庭

オシロイバナのかおりを集めて
そこに柔らかなガーゼのハンカチーフを浸す

薄い桃色に染まったそれの
両端をそっと摘まみ
スカートを広げて

眩暈がするまで
足が絡まるまで



クルクル



クルクル



陶酔して回り続ける
その少女の足下では

ホムンクルスたちが
積み木遊び



三角形の角に
五角形の角を積みあげて
その上に
お城を建てようと

崩れてしまっても
同じことを繰り返して
彼らはいつの日かそのお城に住むことを
夢見てる



その隣に密めく夜闇には
低いところを
ひらひらと
薄い翅を上下にはためかせる
無数の蝶が舞う

鱗粉が落ちて
地面がぼうっと浮かび上がる



馬車は暗い荒野を駆けて行く
馬もひとも同じ
鋼のように鋭く澄んだ眼差しで
地平線だけを見て

蹄が大地を蹴り走る
荷が軋む
風が吹く
漆黒を赤が行く



お気に入りの絵本の中の文字たちは
次々に翻り
逆さまになったり
半透明になったり
明滅したりして
そのお話をすっかり変えて
最後のページでは
巻き毛の王様が
「この物語は終わらない」
叫んでる



それらを傍らに
あなたは映写機の横に座り
子供のように膝を抱えて
何も映し出さない乳白色のスクリーンを
ただずっと眺めてる



遠くへ

遠くへと

私はシャボン玉を吹いている


ナイトメア


目をつむり

辿る

惑う

想いは蝕まれる


やめて


やめて


悪い夢を見る

夜の続いた

ある日

森の途中

鈴を拾った






その夜

鈴を鳴らして

眠りにつくと

悪夢の向こうから

百の獏がやって来て

夢を食い

千の羊が

夜の終わるところまで

連れて行ってくれた






それから鈴を鳴らして眠る

夜が続いた






ある時

目覚めると

そこが何処なのか

わからなくなっていた


獏が夢と誤って記憶までも

食べてしまったようだった






それでも鈴を鳴らし続けた

そして羊に導かれ

それからいくつかの夜を越えた朝にはもう


小箱にしまい閉じておいたものも

ほとんどなくなっていた






大事そうに握りしめているのは

花の刻印された

古びたひとつの鍵


けれどその鍵で開ける扉のことももう

わからなくなっていた












ナイトメア




ただ一心に悪夢の去ることを願い

森を彷徨い歩いていた


古い歌


鳥は古い歌をつないでる

次の鳥から
次の鳥へ


歌は時折地上に落下しながら
この星をまわってる










ある男が荒れ地に落ちた歌を拾い上げた

耳にあてると
たちまち彼は崩れ落ち
号泣して

荒れ地を彷徨い何処かへ消えた






ある老婆が庭先に落ちた歌を拾い上げた

三日三晩見つめると
旅に出るとだけ言い残し
乾いたパンと杖だけ持って

それから彼女が戻ることはなかった






あるこどもの眠るベッドの横に歌が落ちた

こどもは目を閉じたまま微笑んで
そのまま時だけが経ち
こどもはやがておとなとなった

母親は静かに我が子の眠りを守り続けた






ある少女の細く白い手の中に歌が落ちた

少女は手を口元に近づけて
それをすうっと飲み込んだ
すると少女はまっすぐに飛び上がり

鳥となって行ってしまった










鳥は古い歌をつないでる

次の鳥から
次の鳥へ

そうしてこの星をまわってる


何が生まれて
何が壊れても

誰が泣いて
誰が笑っても

鳥は空を
飛び続ける


古く
遠く
終わることのない歌と


あの子の記憶


あの子はここから

消えてしまった





木





いつもそんなふうにいる子だったけれど

もうほんとうに

いなくなってしまった










遠く



遠く



あの子を見かけた者は

あの子は泣いていたと言った



その隣にいた者は

あの子は笑っていたと言った



そしてふたりは口を揃えて言った

まるで踊っているようだったと



そうしてもっと

遠くへ行ったって





無花果



緋





もうここにあの子を思い出す者は

ないけれど



あの子の残した人形が

音もなく涙を流して

微笑んだ


過ち


あれも

これも

私に用意された

ものでない







丁寧に時間をかけて

疑うところなく

隙間なく



私は

私を

知っていった







だから

邪魔にならぬよう



もう

望まないように







誤って触れることのないように

手を結わえて



余計なものを見ないように

目を覆って



ガーゼを切り裂いて

きつく

そうして







私は

私を

止めていった



声は翅を失い

落ちていった










けれど

足を

杭につなぎ忘れた



それが愚かな

私の

過ち







足







そう書き残された

手紙を見つけた


夜譚

幾日も夜の続く

そんな周期があったなら

どんなに素敵なことかしら

どんな秘密をいたしましょう




まずは長い長い

夜道散歩




魔法瓶には残酷なミルクティーをたっぷりと

ローズマリーのクッキーはもう壊れないようにナプキンに包んで

籠を片手に歩き続ける




歩いて

歩いて


歩いて

歩いて




自分を自分としていなくては

自分を失う闇の中


融けて放したら

その中から要るものだけを集めて

つないでひとつにして

闇をゆく者たちの錬金術


木に会いに行って

木々の間を思うままゆらゆらとして

でも私はいつだって

木の下を歩いてる


不安になったらミルクティーを飲んで

するとほら

痛い

大丈夫

失ってない

失えない








夜木




夜木




夜木




夜木




夜木




夜木




胸をおさえて

帰りましょう



薄い膜に身を包む


薄い膜を重ねて


外の世界は少しぼやけて見える







幾重も覆って


その中でまるまって呼吸する


私は幸せ


私は幸せ







そう言って流したたくさんの涙が


膜を溶かした







あの子は痛みといっしょに


美しい鳥を追いかけていった